熊ノ平駅跡  2度目の峠越えその5

第十隧道を抜けるとそこは束の間の平地。
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かつての中間駅、熊ノ平駅跡につきます。

抜けたトンネルを振り返ると、その右手にもトンネルが。
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かつてアプト式の旧線時代には碓氷線は単線でした。
しかし上り下りに時間のかかるこの区間、横川~軽井沢間を一閉塞にしていては、
到底輸送力は確保できません。
仮に一閉塞とした場合には、上りの列車が軽井沢を出ると、横川到着まで下りの列車は発車できません。
さらには次発の上り列車は先発の上り列車到着後、それが横川到着して、
かつ横川からの下り列車が軽井沢に到着しなければ発車できないなんてことになってしまいます。

2時間おきに出発できればいいとこですかねー。お話になりません。
そもそも大前提として、信越への大動脈ですからね、ここ。

旅客も貨物も通るのです。
輸送力はめいいっぱい必要です。


そのため中間点であるここ熊ノ平で、
行き違いを可能としたのです。

しかしそれでも輸送力はまだ足りません。
山中の限られた平地に駅を設けたため、熊ノ平駅の有効長は短かったのです。

単線の行き違い設備で列車交換をする場合、
当たり前ですがポイントからポイント間より長い列車同士は物理的に交換が出来ません。
有効長以内の列車をまず停めておいて、それより長い列車を通過させるという手段もありますが、
その場合でも上下いずれかの列車に輸送力の制約がかかってしまいます。

単純な話ですが列車の長さが短いイコール輸送力が小さいということ。

これをすこしでも解消するために、なかなかの力技がとられました。

上り下りともに駅の前後に引き上げ線のトンネルを掘ります。
まず到着した列車は一旦そこに頭を突っ込んで、後端がポイントを越えるところまで進みます。
これでまずは本線の支障はありませんので、反対列車の通過が可能になります。

しかしこのままでは出発が出来ません。
かといってこのまま下がったのでは、逆走で本線に進入してしまいます。
こいつは大問題です。

そのため今度は後退側の引き上げ線に列車のお尻を突っ込んで、
出発できる位置まで下がっていきます。

毎度毎度こんな作業を行っていたのかと思うと、
まぁなんというかため息も出そうになりますね。

毎回スイッチバックをやっているわけですから。
時間も手間も人員もかかっちゃう。

この引き上げ線のトンネルはアプト式が廃され、
粘着運転化の後、複線化された際には完全に無用のものとなりました。
上下の行き違いをやらないわけですからね。

そんなわけで引き上げ線のトンネルは、保線用通路になったり、
新線トンネルに一部活用されたり、そのまま放置されたり。

長くなりましたが、第十隧道右手のトンネルはその放置された引上げ線の遺構、ということになります。
こういうところも中に入れればなぁ、というのは贅沢なんでしょうかね。
引き上げ線は坑口前の橋梁が壊されているようなので難しいのは分かりますが。

ちなみに坑口の高さが違っているのは引き上げ線は水平、
(旧)本線は既に下りに入っているためです。

この程度の距離で高低差が生じるのだから何ともすごい勾配です。


左手から新線上り線、新線下り線、旧線と坑口が並びます。
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これだけ坑口が並ぶ場面というのもなかなかないような。

新線上り線の配線が地味に気になりますね。
分岐した先どうなってるのかな。


通路の両サイドにはポールとロープが張られ、
あまり広くない構内のさらに一部しか歩けない状態なのが少々寂しいところです。

とはいえ、新線区間も含めて大公開!としてしまっては、
この区間の復活計画進める上では、支障が生じてしまうというところもあるのかもしれません。

復活の実現性に関してはまぁ、アレですけど。
せめて熊ノ平まで復活してくれないかなぁ、なんて思いはしますけどね。


かつてのホーム上、石碑も残っています。
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軽井沢方には3本の坑口が並びます。
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左から順に、旧線引き上げ線のトンネル(保線用通路に転用)、
新線下り線トンネル、新線上り線トンネル。

新線下り線は旧線トンネル、新線上り線は引き上げ線トンネルの再活用。
トンネル内からすでに勾配が始まっているのが見えますね。

もう少しこちらも近づければいいんですけどねー。


横川方を振り返り。
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右手奥には横川変電所の建物も残っています。

現役時代こんなとこ立ってたら大ごとだろうな。


山中の朽ち果てた駅の風情が何とも言えませんね。
寂しいような、なんといっていいのか。

かつての、それこそ旧線時代、
大勢の人がいたであろう頃の様子はどんなものだったのでしょうか。


階段を降りて旧国道18号まで。
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ここに降りて来ても何があるでもないのですが。


さ、登るか。
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遊歩道はここまで。
ここからは普通に道を歩いていきます…

廃線跡そのまま歩きたいのは山々ですが、アウトですからねー。


廃線跡探索はまだちょっとだけ続きます。
ここまで程、濃密ではないです。



つづく